無題8

温泉街で
似合わぬ
アップル・ティーの盃を
かかげ
逗留は五日め
自分の枠順はどこか
定めようとして

ただ
キルケゴールのみ携えて
しかも中央公論「世界の名著」
それを一日につき
三頁から四頁ずつだけ
ちびちびと読んでいく
名も知らぬ鳥が飛んでいく

メモ帳に
何事かを書きつけ
僕は色づく街に繰り出すが
「折り合い」は未だつかず
自分の枠順はとこしえの未確定
やがて驟雨
傘も意味をなさず
びしょ濡れ

この地域では
テレビの深夜番組も脆弱で
夜は早く
ただ一目散に
敷いてくれる布団を抱き
性的な輪廻としての
午前二時半

やがて霜月
粉雪の季節となり
あれほど熱に浮かされた
賭け事も忘れ
僕は賭博者を卒業する
ただ温泉街の日々は
とこしえの平坦

畳に散らかった
啄木歌集が
僕を睨みつけ
僕は想像力のはしため
窓の外の川は
流れを速め
蛇行する

逗留は
終わりに近づき
もうすぐまた都会に戻り
僕はテレビの奴隷
産業の出涸らし
山並みは白さを増し
冷えきる風景

自分の枠順は
とこしえの未発表
ただ社会性からの除外
人生第五競走は
発走締め切り五分前

そして僕は
温泉街を卒業し
テレビ・シティに帰っていく