第1話

その年は寒かった。何枚も服を着こまなければならなかった。
神谷希(かみやのぞむ)はコートに身を包み街路を歩いていた。
その年は寒かった。去年より何倍もうんと寒かった。
神谷希の心も冷えきっていた。
小説が書けないのだ。
かれは高校1年生で、新聞部の部員だった。
しかし、密かにかれは文学を志していたのだ。
しかしかれの小説は動き出さなかった。
どう表現していいかわからなかった。
神谷希は書きあぐねていた。
「神谷くん……」
神谷希の前方に、幸薄そうで小柄な少女が立ち尽くしていた。
日笠雫(ひかさ しずく)だった。
中学校以来の再会だった。